インテリアと経済の関係

デンマークの人々から学ぶライフスタイル

 

ヨーロッパのビンテージの家具や照明器具、雑貨を中心にした品揃えで定評のあるlool。オーナーの大下憲彰(おおした のりあき)さんは、家具の販売、レンタル、修理を手がけるだけでなく、インテリアコーディネーターとしても活躍。おまけに、不動産業まで営む。大学や大学院で経済を研究していた大下さんが、なぜ家具やインテリア、不動産を手がけるようになったのか?お話を聞くうちに、自分の好きなインテリアに囲まれて快適な暮らしをすることへの関心から、これからの長い人生のライフスタイルにまで想いを巡らせてしまいました。

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大下さん : デンマークの家って、カーテンをつけないんですよ!家の中が、丸見えなんですよ。いろんな説があるので、僕もデンマークの友達に聞いてみたら、宗教的な意味合いがあるらしい。つまり、カーテンで締め切ると、家の中で何をしているかわからないという…。「僕ら何も悪いことしてないですよ」っていうことらしいんですね。やっぱり、そのあたりって、日本人の僕らにはわかりにくいことなんですけど。いい照明があって、勿論、「自分の家がかっこいい!」というのも、あるんだけど。彼らは町を一つの集合体として完成させようって感覚があるのです。だから、「枝が変な風に出てても、勝手に切っちゃいけない」とかいう条例があったりするらしいんですね。

 

— デザインですよね、町の景観をデザイン。

大下さん : そうそう。景観を外から見る、町の空気感を大事にする。その時は、やっぱり、こういう照明がいいんですよね。また彼らは子供と同居しないんですね。18歳になったら、子供は必ず家を出て行くのだけど、65歳とか70歳ぐらいになると、年老いた人たちは、子供に面倒を見てもらわず、みんなホームに入るんですね。 で、間違った伝わり方しているのですが、デンマークやオランダって福祉が充実しているという事になっていて、学校とか医療とか無料だって言われているけど、介護は有料だったりするんですよね。スゥェーデンは無料なのかもしれないけど。しかも、高い。 それをどうやって、ファイナンスするかっていうと家なんですよ。 自分たちが住んでいる家がいくらで売却できるのか、あるいは、いくらで賃貸できるのかというのが死活問題。不動産価格に影響を与えているのは、その町の景観。町の景観を守るということは自分たちの資産を守ることでもあるわけ。

 

— 老後を考えて生活していることなんでしょうか?

大下さん : いや、老後だけじゃなくって、日々の行動が、「これは投資か、消費か?」という、明確な区分けがあるような気がしますよ。 IKEAが伸びたのはそういうことだと思います。消耗品としての家具とか照明とか雑貨とか。自分たちが、いつかその持ち家を売却したり、賃貸にする時に資産価値を上げるものについては、投資として価値が上がりそうなものを買う、それは照明であったり、家具であったり、そういったものですよね。お皿とかもそうですよ。ロイヤル・コペンハーゲンとかも、やっぱり価値が下がらない。そういうものを買い、普段使いじゃなくて、週末のパーティに使う、とかそういう使い方をします。彼らは出ていくお金をマネージしているんだけど、同時に必ずペイバックしようと努力します。向こう(ヨーロッパ)で生活をするのは、刺激がいっぱいで、いつも発見や気づきがあるんですよ。そして、向こうの人間と暮らしていると、疑問があったらすぐに聞けるんですよ。それは家具を探して買ってきて売る以上の価値があると思っています。 だから、僕は家具のコンディションを直接見れるのも良いと思って、ヨーロッパまで、買い付けに行くんだけど、そっちの方が僕は今の仕事に生きていると思う。

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— 大下さんが、現在のお仕事をされる事になった、きっかけを教えてください。

大下さん : もともと大学で資源配分の研究をしていていたんですよ。 権力と責任の構造っていう古い考え方があって、その権力と責任の間に資源配分っていう考え方があって、人・物・金・情報って言いますよね? それをどうやったら均衡に配分できるかという研究をしてたんですよ。 あ、意味わかんないですよね(笑)?

 

— 難しいです…。

大下さん : 当時、2000年初頭のITバブルだったんですが、「良い企業の株価とブラック企業の株価って、どう違うんだろう?」といいう研究があったんですが、実は、それってあんまり違いなくって。 長期で見ると、いわゆるいい会社というのは、ボラタリティって言って、株価が変動するのが少ないっていうね。一番重要なのは、生存確率が高い事なんですよ。株価が高くても、明日潰れるってダメなんですよ。株価が、そんなに高くないけど、ずっと続いている会社というのが、永続価値なんですよね。 だから、良い商売というのは、株価では評価されないのかもしれないのですが、続くことによって、世の中に貢献するんだなって思って。自分がいつか、何かやる時は、何らかの形で世の中に貢献するという、世の中の人々が求める形で提供するのが、絶対命題なんだって思って。そうしないとステイクホルダー間の軋轢が起こるんですよ。 ある一定のステイクホルダーに利益だとか、責任や重しが偏重すると事業が成り立たないんですよ。 だから、ステイクホルダーが生じない商売がいいなと思っていました。

 

— そして、家具の方に..。

大下さん : ある事業をやめた人がいて、それをなんとかするっていうミッションがあったんですよ。高級なシステムキッチンやイタリアの家具とか真っ赤なソファーとかがあって。

 

— あ、ゴダールの映画に出てきそうな真っ赤な感じソファーですね?

大下さん : そうそう(笑)。で、それをなんとかするっていう。特に、その高級なキッチンを売るという。直感的ですが、この場所に座っていても、誰も買いに来ないと思いました。全国からお客さんを呼ぶ仕事をしないといけないと、思いました。朝、家を出て、このお店に来る間に砂利道があるんですよ。カラカラってタイヤが石ころを巻き込むんですよ。カラカラって。。 その時に、他県のお客さんを呼べる商売をしていたら、この石ころみたいに、この高級キッチンも売れるかもしれないと思って、目をつけたのがこれです。ビンテージの家具。

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僕、インテリアや建築の人間じゃないから、やたらに、いっぱい買ってきて、当時は北欧家具が流行っていたので、デンマーク行って買ってきて、ネットにたくさんあげて販売していたら、5年ぐらいして、高級キッチンを全部買ってくれる人が現れたんです。

それで、ちょうどキッチンも売れたし、これでアンティークも売れるって思っていた時に、2011年の東北の震災があったんですよね。ニュースを見た時に、直感的に「これはもう輸入業はダメだ!」と思ったんですよ。申し訳ない話ですけど。

原発が止まると火力かなと。火力は重油の輸入が増えるから、貿易収支の赤字なんですよ。街を建て直すのにお金がかかって、財政収支も赤字に。これからは円安圧力だから、輸入業はもうダメだなって思ったんですよ。で、1年半ぐらい何をしていいかわからなくなっていてんですが、2012年の夏にデンマークに行った時に、ホームパーティに行ったんです。そういうパーティーって、いろんな人に出会ったりするんですよ、絵描きさんとかいろんな人に。 そんな中に不動産屋がいたんです!

「なぜ、デンマーク人が家を買うか知ってる?」っていう話を彼から聞いたんですが、「その家が値上がりするから買う」んだって。「値上がりしない価値のないものは、賃貸だ」っていうんですよ。「値上りするモノが投資で、価値が上がらないモノは投資じゃない」って。

 

— わかりやすいですね。

大下さん : そこで教えてもらったんですよ。老後に施設に入らないといけないんだけど、その時に金がかかる月30万。デンマークは90歳ぐらいのおばあさんからでも毎月税金を10万円ぐらい払うらしいのだけど、「そんな国に住んでいて、お金がいくらあっても足りない」と。だから、消耗品と投資。「将来、売却できてお金がなるべく付くための物を買う方が合理的だろ?」って。 不動産はまさにそれのメインストリートだっていうわけですよ。

 

— 本当にすごいわかりやすいですね。

大下さん : でしょ?ずっと僕は、謎だったんですよ。人口少ないのに、すごい大きいショッピンクゼンターがあったり、商店街に活気がある。なぜかっていうと、みんなお金を使っているんですよ。そのお金はどこからくるのか?というのを、ずっと前から、ヨーロッパに行ってる頃から疑問だったんです。

税金高いのになぜ、みんな来ているんだろうって。

将来、家を売却できるファイナンスがあるから、貯金をあんまりしなくていいんですよ。日本人みたいに最低3000万円必要とか、考えなくていいんです。自分の家が将来それぐらいになる価値があるのだから。 日本の不動産って特殊だなって思ったし、直感的に帰ったら宅建をとろうって思って。で、試験を受けたら受かって。で、これで不動産屋になれると思って。その時は、リノベーションに興味があったんですよ。

で、リノベーションするのだったら勉強しようと思い、ファイナンシャルプランナーとインテリアコーディネーターを1年に1個ずつとったんですよ。 で、資格を全部とってから、中古のマンションを購入して、リノベーションしたんです。ふたを開けてみたら、山口ってリノベーションに慣れていなくて、やっぱり新築が主流なんですよ。 山口は土地が安いから、簡単に新築を建てちゃうんですよ、自分の思い通りになるじゃないですか?

リノベーションが定着するのは、難しい問題で、この地には根付かないんじゃないかって思いました。去年、リノベーションを3件やらせてもらったんですが、家具とか絵とかを使って建築コストを安くできたんですよ…。 それは、壁とか床を簡素にして、値段相応のものを使って、そこに絵とか照明とか家具を上手に使うとお金がかかっているように見えるんです。 そうすると通常のリノベーションのコストをかなり圧縮できたんです。 (この後、土地の話から経済の回り方、生活の豊かさについて話は続く。。。)

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僕は、自分のオリジナルではなくって、向こう(デンマーク)の人がやっていることを、実践しているだけだと思うのです。その考え方をそのまま自分がわかっている範囲でやってるだけですよ。自分が死ぬまでに、どう生きたいのかというのが、自分の中で優先順位が高いんです。その中で、家とか不動産が好きな人もいるけど、買い物が好きとか、旅行が好きとか、外食が好きな人とかが、好きなことが出来る収支の構造や状況を作ってあげておくんですよ。 それができる暮らし方ができる計算や数字に基づいたインテリアや暮らし方を提案するのは、すごく意義というか価値があると思っています。 だってほっておいたら、モノの価値なくなっていきますから、今。。。

 

— 生活や生き方とかに結びついてますね。

大下さん : 向こうの人は、そういう暮らし方をしている。だから彼らは、100パーセント楽しそうに見えるんですよ。

 

 

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