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神様と呼ばれた男

渡邊祐策翁とは、どんな人物だったのだろうか。

時は大正。ハットをかぶった立派な装いの紳士が宇部新川駅に降り立った。
身体つきは小柄だが目つきは鋭い。
トランクを持ち、旅の真っ最中といった雰囲気である。
足早に改札を抜け、駅舎の扉を開けて外に出たところで立ち止まると興味深げに辺りの様子を見回した。
客待ちの人力車を見つけると、車夫に声を掛け、行先を告げて台座に乗り込んだ。
駅から離れ、直線の一本道に入ったところで、男は車夫に話しかけた。

「渡邊さんはこの土地の殿様でしょうな」
すると車夫はこう答えた。

「お客様、それは間違っておられます」
車夫の答えは、期待していたものとは全く違っていたので、渡邊さんの名声もそんなものだったかと思った。すると車夫は、どこが間違っているのかを話し始めた。

「昔から、殿様というのは大概ご無理を言われるものと相場が決まっているようですが、渡邊さんは、上下分け隔てなく親切で、お情け深く、この辺りにはなくてはならぬ神様でございます」 と礼賛した。

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これは、ある政治家が九州を遊説した帰りに渡邊邸へ立ち寄ったときのエピソードである。
貧しかった地方の村で、炭鉱を開発し、有形無形の工業へと展開させ、宇部市の発展に力を注いできた渡邊祐策の功績を称えているだけではなく、すべての人々に真心をもって接していた人柄の良さが伝わってくる。

宇部市のシンボルである渡邊翁記念会館の前に立っている大きな銅像は、たくさんの人々から寄せられた寄付でつくられた。
名簿には、小学校の子供たちの名前も記されている。
いかに渡邊祐策が市民から愛されていたかを示す物語である。

参考文献:素行渡辺祐策翁. 乾. 坤 弓削達勝 編 (渡辺翁記念事業委員会, 1936)

 

 

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